シャニダール、花の埋葬 〜 ネアンデルタール人と現生人類

いまさら、と笑われそうですが、先日「シャニダールの花」という邦画があることを知り、DVDをレンタルしてきました。

なぜ観てみようと思ったかというと、ひとつは「シャニダールの花」というタイトルです。
「シャニダールの花」で思い起こされるのは、1950〜60年にイラクのシャニダール洞窟でネアンデルタール人の集団遺体が、たまたま紛れ込んだとは思えない数種類の花の花粉とともに発見されたことから、それまで野蛮だと思われていたネアンデルタール人が、実は献花をして埋葬をしていたのではないかと考えられるようになったことです。これが映画とどんな関係があるのか。
(アイキャッチ画像は、シャニダール洞窟から見つかった花粉のひとつ、タチアオイの花です。http://hanamoriyashiki.blogspot.jp/2012/06/15.htmlより)

もうひとつは、製薬会社の研究所が舞台ということで、生物系の研究にかかわっている自分としては、どう映画になっているのか興味がありました。

映画を観はじめて半分くらい、ネアンデルタール人と花の関係が出てきた少し後のところで、ややつらくなってきて(カズオ・イシグロの小説「わたしを離さないで」に似た痛ましさを感じていました)、一休みして続きを観ようと思っているうちに、レンタルの期限が来たので返してしまいました(^^;)

今回は現生人類とネアンデルタール人の関係について、最近わかってきたことを書いてみましょう。

現生人類とネアンデルタール人は50万年ほど前にアフリカで共通の祖先(ホモ・ハイデルベルゲンシス)から分かれました。その後ネアンデルタール人はヨーロッパに移動したようで、35万年前のネアンデルタール人の化石がヨーロッパで見つかっています。
一方、現生人類の方は10万年前にアフリカで誕生し、6万年前にアフリカを出て世界に広がっていったと考えられています。

ネアンデルタール人はおよそ2万4千年前に絶滅したのですが、3万年から4万年の間、現生人類と同時に生きていたということになります。ではその間、現生人類とネアンデルタール人はどのような関係にあったのでしょうか?少し前までは、友好的であったのか、敵対的であったのか、それとも無視しあっていたのかは謎でした。
ナショナル・ジオグラフィック2008年10月号「ネアンデルタール人 その絶滅の謎」

実は、私は子供の頃から比較的最近まで、ネアンデルタール人というと猿人に似ていて粗暴、というイメージを持っていました。
それは、私がシャニダール洞窟での発見を知らなかったということと、もうひとつは子供の頃に読んだSFの影響があったと思います。H. ビーム・パイパーの「夜明けの惑星」。詳しく書くとネタバレになってしまうかな?下の挿絵をご覧になると見当がつくと思いますが...

ネアンデルタール人と現生人類がどのような関係にあったのかは、現在DNAの解析から次々と新しいことがわかってきています。

マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ博士のグループは、3万8千年前のネアンデルタール人の骨の化石から採取したDNAの配列を読み取ることに成功し、2010年に現生人類(アフリカ系黒人、アジア人、白人)のDNA配列と比較した結果を報告しました。
それによると、ネアンデルタール人に由来するDNAをアジア人と白人は持っている一方、アフリカ系黒人は持っていないという結果でした。

つまり、現生人類はアフリカで誕生したのですが、その場にとどまったアフリカ系黒人はそのままのDNAを保ち、アフリカからユーラシア大陸に移動したアジア人と白人の祖先はネアンデルタール人と交配していたのではないかと推測されるわけです(ということは、敵対的な関係ではなかったということになります)。

ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子は、免疫、目の色(青)、髪の毛(金髪)や皮膚の色(白)にかかわる遺伝子。白人は相当にネアンデルタール人の身体的特徴を受け継いでいるようですね。ユーラシア大陸の気候に適応するのに有利だったのでしょう。復元図も、以前の猿人っぽい復元に比べて、ずっと現生人類(というか白人)に近くなっています。

しかし、一方で私たちは負の遺産も受け継いでいるようです。
「科学検定」より”【科学ニュース】アレルギー反応はネアンデルタール人のDNAに由来?”
「Aging Style」より ”現代人がネアンデルタール人から引きついだ遺伝子はうつ病、タバコ依存、皮膚がん…”

ネアンデルタール人がタバコに接触する機会はなかったでしょうから(タバコはアメリカ大陸起源)、彼ら自身はタバコ依存にはならなかったと思います。
私は40年近く吸ってきたタバコをお休みして(あえて禁煙とはいわないでおこう)今やっと5か月の手前。まだタバコを吸いたいなあと思うことがしばしばです。これはネアンデルタール人の遺産なのですね。

この記事に関係した本

ラルフ S.ソレッキ「シャニダール洞窟の謎」香原志勢・松井倫子訳、蒼樹書房 1977

H. ビーム・パイパー「夜明けの惑星」福島正実訳 ジュニア版・世界のSF 第3巻、集英社
福島正実編「千億の世界(海外SF傑作選)」講談社 に「創世記」として収録

スヴァンテ・ペーボ「ネアンデルタール人は私たちと交配した」野中香方子訳 文藝春秋

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コメント

  1. オーロラ より:

    うーん、、、
    ネアンデルタール人と現生人類の違いを、
    学校でどのくらい教わったのだろうか、、、、。
    と自分の記憶をたぐりますが、よく思い出せません。

    笹の葉文庫さんのブログを読んで、
    以前、上野の国立博物館の現生人類の展示を見たときに、
    自分の無知に愕然としたことを思い出しました。
    随分研究も進んでいると思いますので、
    今のこどもたちには、より深い知識が伝わるといいですねえ。

    • Dr.S より:

      コメントありがとうございます。
      私もいつネアンデルタール人のことを習ったのか(知ったのか)思い出せません。
      コメントされた通り、人類の由来という大事な事柄を子供たちに面白く伝えられればいいですね!