映画「博士の異常な愛情」その1

中学2年生の時にA.C.クラークの「宇宙のオデッセイ2001」を読み、その映画「2001年宇宙の旅」を観たくてしかたなかった、ということは前回書きました。映画「2001年宇宙の旅」についていろいろ調べているうちに、監督のスタンリー・キューブリックが「2001年宇宙の旅」に先立って「博士の異常な愛情」という映画を作っていたということを知りました。SFマガジンの記事には、キューブリック監督が「博士の異常な愛情」のおかげで「アメリカ3軍を敵に回した」と書かれていました。

「博士の異常な愛情」って何?軍を敵に回す?いったいどんな映画だろう、とこれまた情報を集めていくうちに、タイトルの「博士の異常な愛情」は原題の最初の「Dr. Strangelove」(人名)の直訳、そのあとタイトルとして「または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」が続き、内容は核戦争の偶発をブラック・コメディーにしたてて軍を風刺した映画らしいということが分かりました。

私は1978年に東京の大学に進学し、他のサークルには目もくれず一目散にSF研究会(SF研)に入りました。SF研にはノートがあって、そこに読んだ本の感想やら音楽や映画の感想、そのほかまあ何を書いてもよいことになっていました。ノート上では「ノートネーム」(今だとハンドルネームになりますか)を使う習慣で、それを決める必要がありました。

そこで、考えたあげく(というほど考えなかったかな)私はノートネームを「Dr. Strangelove」にしたのでした。一般的には、SFファンというのはまあ異常とは言わないまでも、変わっているという人種でしょうし・・・
そしてそのうちDr. Strangeloveと書くのは自分もほかの人も面倒になり、Dr. Sと短縮するようになりました。

ブログ管理人のハンドルネーム「Dr. S」はこれを引き継いでいます。Sは「笹の葉文庫」にも通じますし・・・そう、今は「Dr. 笹の葉」の略の方がよいかも。

さて、映画「博士の異常な愛情」ですが、1978年、「2001年宇宙の旅」のリバイバル上映の前に、高田馬場の映画館で3本立てのうちの1本として観ることができました(他の2本が何だったのか、記憶が定かではありません)。
初めて見る、ピーター・セラーズ演じるところのストレンジラブ博士は笑えるけれども相当に不気味でもあるキャラクターでした。ノートネームの撤回までは考えなかったにせよ...

映画では、オープニングタイトルのB52爆撃機の空中給油の夢幻的ともいえるシーンと、そこから一転して攻撃命令を受けたB52の内部のリアルさ、ソ連(当時)領内へのB52の侵入を刻々と映し出す巨大なスクリーンを備えた作戦室の光景、そして白黒の映像のかもしだす緊迫感に圧倒されました。

そんなドキュメンタリータッチの背景の一方で、登場人物(軍人たち・アメリカ大統領・ソ連大使・ストレンジラブ博士・美人秘書)は大統領と秘書をのぞいて皆まともとは言いがたく(軍が怒るわけです)、ブラックな笑いを誘う数々のシーン − たとえばドイツ出身のストレンジラブ博士がアメリカ大統領に「総統!」と呼びかけてしまう、あるいはB52爆撃機の機長が核爆弾にまたがって(故障を修理しようとしたあげくのアクシデントというのは映画を観て知りました)ロデオ状態で落下する有名なシーンなど − は印象深く残りました。
社会人となってビデオを買い何度か観るうちに、そんなブラックな笑いのシーンを面白がるというより、どこか物悲しさをおぼえるようになってきました。

「博士の異常な愛情」の原作はピーター・ブライアントの「破滅への二時間」。題名中の「二時間」は、空中で待機中のB52戦略爆撃機が攻撃命令をうけてからソ連(当時)内の目標に到達するまでの時間です。こちらはシリアスで、笑いをさそう要素はありません。テーマが深刻なだけに、映画はともかく小説でブラックコメディにするのは相当に難しいのでしょう。
同様のテーマを扱った「フェイル・セーフ」「15時間の核戦争」もシリアスです。この点で、筒井康隆の「霊長類南へ」は小説でブラックコメディにしたて得た特異な例ではないでしょうか。

「破滅への二時間」と「博士の異常な愛情」を比較して(違うところはいっぱいあるのですが)、最初におやと思ったのが、B52の機長の年齢。「破滅への二時間」では他の搭乗員も含めて20代なのに、「博士の異常な愛情」のコング機長はどうみても中年(役を演じるスリム・ピケンズの年齢だと44歳)です。
20代の若者が核爆弾に乗ってロデオさながらに落下していくなんて、物悲しさを通り越して痛ましい。その点では、まさにあのシーンをブラック・コメディにとどめるためにスリム・ピケンズが選ばれたのかなとも思ってしまいます。

この記事に関係のある本

「破滅への二時間」ピーター・ブライアント 志摩隆訳 ハヤカワ・SF・シリーズ 3069  早川書房

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コメント

  1. パンダ より:

    この映画の曲が印象的でしたね~。
    行進曲風の。
    案外いろいろな所で使われていて、
    キッズ向けの英語教材とか。
    びっくりなのが、ディズニーランドのクリッターカントリーで流れているのを聞いたことがあるんですよ!
    スプラッシュマウンテンのいばらと、案外合っていましたよ。
    この曲。

    • Dr.S より:

      コメントありがとうございます。
      音楽は「ジョニーが凱旋するとき」です。南北戦争のときに作曲された、アメリカではメジャーな行進曲のようです。「博士の異常な愛情」のは、どこか哀愁を感じる演奏だと思います。